作品解説

  高さんによる作品解説です。

ピエロのためのマーチ

 実在するピエロの、ハーモニカネタのパフォーマンスからヒントを得て作曲した、私にとって吹奏楽のための第一作目のマーチです。感傷的な前奏、長調と短調が交じり合う主部、前奏の3拍子のメロディーを4拍子の伴奏にはめ込んだ中間部、大げさなコーダを持ち、全体的にユーモラスなキャラクターを特徴としております。
 音源は初演のものですが、2001年、2度低く移調して技術的により易しくした改訂版を作りました。

サムルノリと吹奏楽のための『ピナリ』

 大阪朝鮮吹奏楽団の委嘱作品です。ちょうどこのころブームになった、韓国の民俗打楽器四重奏グループ「サムルノリ」の音楽をベースにした、吹奏楽との一種の協奏曲となっています。
 タイトルの「ピナリ」とは、祭事の祈り歌、呪術文のことです。曲は韓国の伝統的なリズム、「長短(チャンダン)」に終始支えられて展開する、かなりの難曲です。

吹奏楽の為のシンフォニー0番

 この曲は、1991年に某舞踊団の委嘱に応じて作曲した舞踊音楽を、1995年にESA音楽学院の委嘱に応じ、吹奏楽曲として改訂したものです。
舞踊版では筋書きが有り、それに即した音楽作りが求められましたが、当時私が最も重視したのが器楽曲としての側面であり、当初から舞踊から独立した音楽として演奏が可能であるように、舞踊の筋書きを知らなくても・無視しても鑑賞に堪えうるように、形式面や構造面での工夫を凝らしてありましたので、改訂にあたっても大きな変更なく単一楽章形式の吹奏楽曲とすることが出来ました。タイトルの「0番」は、吹奏楽の編成でこのようなスタイルで作曲することを、最初で最後にしようと意味からこのように名付けました。
 舞踊版を作曲したのはまだ音楽大学の学生時分で、今聴き返すのは耐えられないほど照れ臭くもあるのですが、この曲を聴いていただいた方から、新たに作曲の委嘱を頂くことも幾度かあり、その意味で愛着のある曲です。

カーニヴァル・デイ(旧題ポルカマーチ)

 播磨南高等学校吹奏楽部の委嘱で作曲、同吹奏楽部によって初演された後、第1回「響演」で再演され、デ・ハスケ社から出版されるという、私の作品の中では最も順調に出世した作品です。前作「ピエロのマーチ」と同じく、この曲もアクセントのずれたリズム、よく変化するテンポ等、マーチにあるまじき要素が含まれている事が特徴です。
 タイトルは「響演」での再演までは「ポルカマーチ」となっておりましたが、出版に際して現行のものに変更されました。

「ソナティネ」〜フルートソロのための

 この曲は、現在第9番まで書き続けられている、様々な編成の為の「ソナタ」シリーズの一環として1997年に作曲され、編成と曲の規模から「ソナティネ」と名付けたものです。
 朝鮮半島の伝統音楽から、旋律とリズムの身振りを借用し(直接的な引用はほとんど有りません)、序・謡・舞・結、の4部分から成ります。

金管五重奏のための組曲

 この作品を委嘱して下さった、大阪クインテットの標語に、「金管五重奏の枠を超越する」という言葉があります。
 作曲に際して、同クインテットの演奏を聴かせていただいた折りに抱いた感想と、この標語とをよりどころにしました。「金管五重奏の枠を超越する」とはいえ、金管楽器にとっての技術的無理難題を課すということではなく、所謂「金管楽器らしさ」を生かそうとするあまりに捨てられがちな音楽的発想を、出来るだけ犠牲にすることなく曲を作っていこうと努めてみました。
 曲は、スネアドラムをイメージして書いた冒頭のファンファーレとそれに続くメロディアスで対位法的な中間部分をもつ「I. Fanfare - Introducution」、諧謔的なスケルツォと第3楽章との関連をもつワルツとの対比が特徴的な「2. Scherzo - Waltz」、抑制された動きの中での表現を試みた「3. Adagietto」 の三つの楽章から成ります。

木霊

 ミ・ベモルサクソフォーンアンサンブルの委嘱作品です。滋賀・神戸での初演の後、ミ・ベモルのカナダ公演のプログラムにも組み入れてもらえて、カナダ各地を巡演し、かなりの好評を頂きました。その後大阪と東京でも再演され、私の作品の中では最も再演回数の多い作品となりました。タイトルの「木霊」は、作曲を終えた後にミ・ベモル主宰の前田昌宏氏と相談して、最もこの曲に相応しいと思われる語を選びました。この曲では水彩画のような「にじみ」の効果が多用され、それが作品の特徴ともなっています。

ザ・マーチ

 この作品は私が書いた三作目のマーチにあたります。作曲にあたっては、「マーチ」という曲種に背を向けたスタンスを取ってみました。例えば、定冠詞付きでこのジャンルを名乗っているにも関わらず、3拍子の音楽が少しづつ姿を現してきて、その占める割合を増してゆき、後半では完全にワルツとなってしまったり、また、伝統的な形式では欠かせない中間部「トリオ」があるようで無かったり、さらには、皆さん誰もがご存知の、あのフレーズがパロディー調に顔を出して、それが曲の最後では真面目くさった調子で展開されたりと、4作あるマーチの中では最も諧謔性、風刺性の強いマーチと言えます。

7. Sonate für Klavier

 ピアノの硬質な響きに誘われて、3和音を含む調的和声と、非調的和声の融合を模索。
 対比要素として、オスティナート・バス上の単旋律が所々挿しはさまります。
 手法としては、出来るだけ単純な素材を用いてそれを追求していくという点で、ピアノ のための前作、「5. Sonate-a für Klavier 」を継承しております。

コール!119

 姫路市消防音楽隊結成50周年記念委嘱作品です。消防音楽隊からの委嘱ということで、消防士の活躍をテーマとした、マーチ風の曲を書くことにしました。
 タイトルは公募で決まり、作曲前に頂きました。序奏、まず非常ベル(高音木管のトリル、トライアングル)が鳴り、それに応えるように低音楽器群からサイレンがうねり始め、金管楽器が奏する高らかなファンファーレの中、出動です。
 続く主部は、消防士達の活躍を目眩くようなパッセージで描いた第一主題と、それを周囲から励まし、讚えるような第二主題とを中心としたソナタ形式でまとめています。
 曲の最後は、実用的なマーチにも使えるように最後まで四拍子を崩さないエンディングと、盛大な印象を残すエンディングの二つを用意しました。録音は後のものでの演奏です。

琉球奇想曲(吹奏楽版)

 この作品は、大阪音楽大学クラリネットオーケストラの2000年度委嘱作品として作曲したものを、吹奏楽に書き改めたものです。
 作曲にあたって、数多くの沖縄民謡から3曲を選び、そこに自作の沖縄風旋律断片を加えながら組み立てたので、これは私の「作曲」というよりは、沖縄民謡の「編曲」と言ったほうが正しいかもしれません。
 曲は、沖縄の海と空、波音をイメージした前奏に続き、最も広く親しまれている唄の一つ「てぃんさぐぬ花」を中心とした前半部分、中間部分は八重山民謡「トゥバラーマ」のこだまに導かれて、「屋嘉節」で忘れてはならない沖縄戦を回想します。後半は、尽きることの無い沖縄の酒と唄と踊り「カチャーシー」をイメージした音楽に既出の旋律を絡ませながら、最後はまた最初と同じ風景に戻ります。

8. ソナタ (2001) 〜クラリネット・ソロとピアノのための〜

 前作 7. Sonate では、三和音を含む調的和声と非調的和声との「融合」を試みましたが、 この作品では、調的音楽と非調的音楽という異質なものが、一つの音楽の中でその異質 性を保ちながらどこまで「共存」できるか、その可能性をテーマとしました。
 ピアノソロによる調的音楽の提示の後、そこから生まれるようにクラリネットの旋律が 立ち現れますが、これはしだいに非調的音楽へと姿を変えていきます。時々挿まれるピ アノの和声はその間も調性を保っていて、両者の緊張が高まります。その距離が最大と なったところで頂点を迎えますが、結尾では「融合」された音楽で曲を閉じます。

9. Sonate alla "HAN" für Orchester

 待兼交響楽団の委嘱作品です。副題のalla"HAN"(HAN風に)の "HAN"とはハングルで発音した韓民族の「韓」でもあり、朝鮮半島の伝統文化を語るときに必ず言及される「恨」の精神のことでもあります。このことが示すように、この作品は朝鮮半島の伝統音楽に深く根差しており、曲は伝統的な曲種である「大吹打」、「散調」と「子守歌」の題を持つ三つの部分からなります。
 「大吹打」は王の行幸、通信使の行列、軍隊の行進または凱旋などに使われた、管楽器と打楽器で奏される勇壮な音楽で、この作品でも金管と打楽器で冒頭を飾ります。「散調」は民俗楽器による器楽独奏曲のことで、この作品ではクラリネットの主導により作品の中核をなし、その後「大吹打」が短く再現され曲の頂点を形成します。儀式音楽である「大吹打」で始まり、民俗楽である「散調」を経て、最後は最も個人的な歌である「子守歌」で穏やかに曲を閉じます。
 この作品では他面オーケストラというものを、木管四重奏を独奏者群とする言わば「コンチェルトグロッソ」として捉えており、木管楽器の活躍が聴き所の一つとなります。

Fragments for piano solo

この作品は、今から二年前にピアニストのティエリー・ラヴァッサール氏が当時進行中だった、フランスと日本の複数の作曲家に俳句をテーマとした1分30秒以内のピアノ独奏曲を委嘱し演奏するというプロジェクトに、縁あって私も参加させていただいて、その時氏から課された蕪村の「においある衣も畳まず春の暮れ」という句に作曲した二つの小品に、今回新しく書き下ろした「Ode to BUSON」を加えたものです。私にとって、俳句という完結した17文字には入り込むすき間が無く、蕪村のこの句を表現したというよりも、1分30秒以内という制限の中で、俳句のように作曲した、というのが正直なところです。「Ode・・・」はそういった制限なく、自由に作曲しました。

我等の願い(2000)

韓国人作曲家、安丙元(アン・ビョンウォン)氏が子供のための歌芝居のために作曲した歌曲「我等の願い」を、まず大阪朝鮮吹奏楽団の委嘱でソプラノ独唱と吹奏楽の作品として1994年に編曲。それから六年後の2000年に、神戸朝鮮初中級学校吹奏楽部の委嘱で、吹奏楽単独で演奏出来て、なおかつ演奏時間を7分前後に短縮するため大幅にカットし、新たに作曲した部分を足したものが、2000年版「我等の願い」です。

「茶摘み」

有名な唱歌「茶摘み」を主題に1998年アレンジした木管五重奏版を、昨年(2002年)富山県立高岡工芸高等学校吹奏楽部の委嘱で、サックス四重奏曲に書き改めたものです。その際、中間部のフゲッタを拡大させまして、木管五重奏版では2分半だった演奏時間もサックス四重奏版では3分半となっております。 音源の演奏は同校吹奏楽部の皆さんによるアンサンブルコンテストでの実況録音です。

「コリアン・ダンス」

私はこれまでも自らのルーツである朝鮮半島の音楽素材を、自作品−韓国打楽器アンサンブルと吹奏楽のための「ピナリ」(1995)、Sonatine für Flöte solo (1997)、クラリネットオーケストラのための「雲のアリラン」 (1998)、9. Sonate alla "HAN" für Orchester(2001)等々−に取り入れてきました。これらの作品群では「チャンダン(長短)」と呼ばれる韓国の伝統的なリズムの数々を用いていますが、今夜の「コリアン・ダンス」もそうした作品に連なるものとして、チャンダンを大いに活用し再構成させています。

第一楽章「Preludio」:アンタンチャンダン(譜例1)に基づいた、一種の行進曲風小序曲。

第二楽章「Passacaglia」:古い民謡「鳥よ鳥よ、月よ月よ」(譜例2)を、各楽器がソロ、あるいはパート・ソリとして歌い継ぎながら14回繰り返す、幻想曲風変奏曲。

第三楽章「Rondo - Finale」:前二楽章の素材と、イングリッシュホルン(アルトサックスで代用可)のソロが歌う新たな旋律をもととする、全曲中の展開部、終結部としての役割を持っています。
またこの楽章ではチュンジュンモリチャンダン(譜例3)、チルチェチャンダン(譜例4)、チャジンモリチャンダン(譜例5)、クッコリチャンダン(譜例6)、フィモリチャンダン(譜例7)等を、そのまま使うだけでなく、伝統的な使用例から解放し、自由に再構成させています。

チャンダンは、朝鮮半島の数々の文化の中でも際立って独自であり、チルチェチャンダンのように複雑でありながらも、その独特のノリが人々を強く惹きつけます。「コリアン・ダンス」が、その魅力に相応しい程には広く知れ渡っているとは言い難い、チャンダンの世界への扉となることが出来れば幸いです。

Introduzione ed Allegro con bravura (2002)

NTT東日本東京吹奏楽団委嘱作品。第26回全日本アンサンブルコンテストにて上演され、銀賞を受賞しました。トランペット二本、ホルン一本、トロンボーン三本及びティンパニという少々変則的な編成になっております。曲はタイトルが示す通り、ゆったりとしたIntroduzioneと技巧を凝らした主部Allegro con bravuraから成ります。ブラヴーラという語感が気に入って命名しました。録音の演奏では効果を高めるために随所で初稿を変更しています。



Copyright(c).2002 S.Kuwajima / Chang Su KOH